
私たちは毎日、たくさんの「形」に囲まれて暮らしています。家具や文房具、身につけるもの、そして街の建物まで。実はそれらの形は、ただ目に映るだけでなく、私たちの気持ちにも少しずつ影響を与えているのです。
例えば、丸い形を見ると、なんだか安心した気持ちになることはありませんか? 心理学では、人はものを「ひとまとまり」として見ようとする、と言われています。角のない丸はまとまりとして感じやすく、自然と心を落ち着かせてくれるのです。さらに、自然界でも丸いものは危険が少なかったため、人間は本能的に「安全だ」と感じやすいとも考えられています。
逆に、とがった三角やギザギザした形を見ると、少し緊張したり警戒したりします。これは自然界で「尖ったもの」がトゲや牙など、危険のしるしであったことに関係しています。形そのものが、私たちの感情を動かしているのです。
また「シェイプ・セマンティクス(形の意味)」という考え方もあります。たとえば、やわらかな曲線は「やさしさ」や「親しみやすさ」を感じさせ、直線や直角は「力強さ」や「きびしさ」を思い起こさせます。こうした印象は文化によって少し違う部分もありますが、川の流れや木の枝、山の稜線など、自然界で繰り返し目にしてきた形と深くつながっているのです。
つまり、形は単なる見た目のデザインではなく、心に語りかける「もうひとつの言葉」だといえるでしょう。私たちが選ぶモノや空間のデザインにも、無意識のうちに「形の心理」が息づいています。
街を歩くとき、ビルの直線や窓のならび、ベンチの丸みなどにちょっと目を向けてみてください。そこには、人の心と自然界の記憶が重なり合った「かたちと心の関係」が隠れているかもしれません。
そして、この「かたちが心に与える影響」を意識することは、私たちの仕事にも直結します。プロダクトのデザイン、広告表現、空間づくり――そのすべてにおいて、形は無意識の感情を動かす大切な要素です。
大切なのは、単なる見た目の美しさではなく、形が人にどう感じられるかを意識して取り組むこと。小さな工夫の積み重ねが、より心に届くデザインを生み出す力になります。デザインに関わる私たちだからこそ、この視点を日々の仕事に活かしていきたいと感じています。
R&D本部 H.S.